安田先生から学ぶこれからの子育て
お子さんの将来を 支えてくれるものは「何」?
「これからはどんな職業が有望だろうか?」「自分で食べていけるようになってほしい」「少しでも安全確実な道を歩んでほしい」「自分の好きなことを仕事にしていけたらいいと思う」……わが子のこととなると、いろいろ思い、悩みますよね。で、お子さんの将来を支えてくれるものは何かについて、私なりの考えをお話ししたいと思います。
安田教育研究所 代表
安田 理 氏
東京都出身。早稲田大学卒業後、大手出版社で雑誌編集長を務めた後、教育情報プロジェクトを主宰、幅広く教育に関する調査・分析を行う。教育情報編集部長を最後に同社を退社し、2002年安田教育研究所を設立。講演・執筆・情報発信、セミナーの開催、コンサルタントなど幅広く活躍中。著書に『中学受験 わが子をつぶす親、伸ばす親』(NHK出版)他がある。
灘中は受験生に
何を望んだのか?
2026年度の中学入試において一番話題になった入試問題と言えば、灘中が国語で出したこの問題でしょう。パレスチナの詩人がガザの少女をテーマにして書いた「あしに おなまえ かいて、ママ」という詩が取り上げられたのです。戦火の中で、もし自分に何かあったとき、せめて名前だけはわかるように――そんな願いを込めて母に頼む子どもの声です。
問いの中には、「――線部2『ママのあしにも/ママとパパの おなまえかいて』とありますが、この時の家族の状況はどのようなものですか。答えなさい」というものもあります。この詩を、灘中が入試問題として扱ったことには、大きな意味があると思います。灘中を受けてくるような子ですから、学力は当然問題ありません。学校がこうした問題を通して求めているのは、社会への関心と“感受性”だと思うのです。
いま私たちの子どもは、平和な日本で、家族に守られ、学校に通い、友だちと笑い合いながら成長しています。その日常は、世界の多くの子どもたちにとっては決して当たり前ではありません。この問題は「あなたは、この詩の子どもの気持ちに寄り添えるか」「遠い国の出来事を、自分とは無関係だと切り離さずに考えられるか」を見ているのです。
例として入試問題を出しましたが、社会への関心と“感受性”は、これから子どもたちが長い人生を生きていく上で、とても大切な“力”だと考えます。
会計士から溶接工へ
昨年12月、日本経済新聞にAI時代を象徴するショッキングな記事が掲載されました。AIが人間の知的労働を代替し始めたオフィスを去って、職業訓練校で配管工や空調整備などの技術をリスキリング(学び直し)する人たちが、米国で増えているというのです。例に取り上げられていた人物は、高校卒業後、名門カリフォルニア大学バークレー校などで学び、会計士として働いていました。2019年、知人に「数学の知識を生かせて、もっと稼げる仕事があるよ」と配管工を紹介され、職業訓練校に通った。ブルーワーカーに転身した今は、月に1万2000ドル(約190万円)を稼ぎ、会計士時代の3倍だという。
日本でも上右の写真の本が売れています。現在パソコン上でやれていることはAIにとって代わられるので、デスクワーク中心のホワイトカラーは不要になると予測されています。
確かにAIは、これからどんどん発達するでしょうから、認知能力では人間に勝ち目はないでしょう。
私のやっていることはごく初歩のレベルですが、AIにやってほしいことの指示を出すには、こちらがそれ相応の知識・情報・思考力を持っていなければなりません。ですから私は、現在の学校教育がムダとは思いません。高度な学力があればあるほど、的確な指示を出せると実感しています。
最近、AIに恋愛相談、人生相談をする若者が増えているということも耳にします。が、それは生身の人間との付き合いが苦手な人の話ではないでしょうか。AIは優しく寄り添ってくれるので救われるというのですが、リアルな人間関係で生まれる悩み、葛藤、喜び、怒り、悲しみといった、さまざまな感情の海の中を生きていくことこそが人生ではないでしょうか。国、民族、性、宗教、年齢、文化といったものを越えて、多種多様な人とやり取りができる“人間性”こそが、AIにとって代わられない大切な“力”だと思うのです。
この“力”は、学校だけでは育ちません。家庭での何気ない会話、ニュースを見ながらの小さな対話、誰かの悲しみに触れたときの親の反応――そうした日々の積み重ねが、子どもの心の土壌を豊かにしていきます。「どうしてこの子はこんな気持ちになったんだろうね」「もし自分だったら、どんなふうに感じるかな」。そんな問いかけが、子どもの世界を少しずつ広げていくのです。